百合子の秘め事-まさかのダブルデート・2

「これでいいかな……」
鏡に映る私は、ピンクをアクセントにしたナチュラルなコーデに身を包んでいました。
今日は動物園だし歩き回ることも考えて、パンツルックです。
スカートの時より、ちょっと活動的に見えるかな?
メイクも可愛くできた自信があるし、デートに向けて気合が入ります。
今日は早めに家を出て、最寄りの駅前で夏美と落ち合う約束でした。
「おはよう、百合子早いねぇ」
駅前で待っていると、やって来た夏美が手を振りながら駆け寄ってきました。
いつもジーンズ愛用の夏美も、今日は気合の入ったアクティブなコーデ。
友達みたいな感じだと言いながらも、順平さんとはいい感じみたいです。

その順平さんや寺田さんとは、動物園前の駅で待ち合わせです。
動物を見に行くなんて久し振りだし、電車に乗っている間もちょっとワクワクしていました。
上野駅の動物園口はパンダの装飾があしらってあるし、まだ人もまばらな売店もパンダものが多くてなかなか壮観でした。
「おっ。夏美、百合子ちゃん、こっちこっち」
改札を出ると、待っていた様子の順平さんが手を上げて声をかけてきました。
「何、順平今日はやけに早いじゃん」
「楽しみで寝てらんなかったんだよ」
いつもは私よりも遅いくせにという夏美に、順平さんは笑って肩を竦めます。
「順平さん、チケット取ってくれてありがとう」
「いや~、普段抽選とかなかなか当たんないからどうかと思ったんだけど、取れてよかったよ。百合子ちゃんの運かな?」
「あんたクジ運とかないもんねぇ」
夏美に横からつっつかれながらも、順平さんは笑っています。
少し経つと約束の時間が近くなって、改札から寺田さんが出てきました。
「寺田さん」
私が声をかけると、彼はすぐに気づいて私たちの方に歩いてきました。
「おはよう、みんな早いね」
寺田さんの挨拶に、皆で朝の挨拶を交わして。
「私の友達の夏美と、彼氏の順平さんです」
と夏美と順平さんを紹介すると、寺田さんは二人にぺこりと頭を下げます。
「初めまして、寺田です。百合子さんにはいつもお世話になっています」
「あっ、こちらこそ……」
「どもっス」
夏美までなんだか畏まった感じになっちゃいましたが、順平さんは割といつも通りでした。
動物園の開園時間も近かったので、そろそろ移動しようかという話になった時。
「そうだ、順平さん。今のうちにチケットの代金、渡しておきますね」
「じゃあ僕も……」
お財布を出した私に釣られてジャケットの懐に手を入れる寺田さんを、私は止めます。
「寺田さん、今日は私に出させてください。私が誘ったんですから」
「そうかい?」
「はい」
いつも会う時は寺田さんに出して貰ってばかりだから、今日はそうしたかったんです。
「じゃあ、ここはお言葉に甘えようかな」
寺田さんも私の気持ちを汲んでくれたみたいで、懐から手を引きました。
「ありがとうね、百合子ちゃん」
そう言ってにっこり笑う寺田さん。
動物園の入場料くらい彼にはたいした金額じゃない筈なのに、私のことを考えてそう言ってくれる寺田さんに胸がきゅっとなる思いでした。

待ちに待った動物園。
正門から入園して、少し歩くと見えてくるのはゾウのコーナーです。
「あたしパンダ見たい!」
「待てって、パンダは端渡った先だろ。こっち回ってからにしようぜ」
夏美と順平さんが賑やかに歩いていく後ろを、私と寺田さんは肩を並べてゆっくり歩いていきます。
入場制限がかかっている分、園内は人も多くなくゆったりとした雰囲気が流れています。
可愛いカワウソが陸でのんびりする姿を眺めたり、悠々と歩くトラを眺めながら、それぞれの動物の特徴や生態について話をしたり。
穏やかに過ごしていると、こういうのが掛け替えのない時間なのだなと感じていました。
「あ、バク」
トラのエリアからも近いバクのコーナーで、私は足を止めました。
「バク、好きなの?」
「白黒の子が可愛いなって……ここのは違いますけどね」
パンダのような白黒のツートンカラーのバクはマレーバクですが、この動物園にいるのは焦げ茶色のアメリカバク。
「やっぱり色が違うと、大分感じが違いますね」
色合いって大事なんだなぁと、水辺を歩いている焦げ茶一色のバクを眺めながら思うのでした。

 

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