百合子の秘め事-まさかのダブルデート・1

春もたけなわ。
色とりどりの花が次々と咲き、4月の初めにピンクの花を咲かせていた桜の木も今や青々とした若葉をぐんぐん茂らせ、緑の季節に移り替わろうとしているのを感じます。
みんなの間では、そろそろゴールデンウィークはどうするかなどの話題も出てくる時期。
爽やかで過ごしやすい5月頃の気候を思いながら、私は勉強に励んでいました。
寺田さんから貰った万年筆は、いつもペンケースに入っています。

「そっかぁ、まぁ仲良くはやってるって感じなんだ」
大学の帰り、桜の並木道で私と話していた夏美がそう言います。
今日は講義の後そのまま帰る予定だったので、夏美が一緒に来てくれていたのです。
とはいえ、あの一件以来拓也が私の前に現れることはありませんでしたが……まだ少し不安があります。
友人たちやサークルのみんなも心配してくれていて、付き添って帰ってくれる時には時々お茶を奢ったり振る舞ったりしていました。
今の話題に戻って、寺田さんの話です。
出会い系アプリには夏美が勧めてくれて登録した手前、寺田さんとのことについて彼女には話していました。
……生で中出しまでして貰っていることは流石に言えないですが。
でも、サイトの性質や私のいきさつの上で、私と寺田さんがエッチするような関係になっていることは夏美も察しているでしょう。
親密にはなっているけれど、正式に恋人としてお付き合いしている訳ではない……そんな関係の私たちについては、彼女も少し気になっているようでした。
「百合子としては、ちゃんと付き合いたいって思ってるんでしょ」
「うん」
「でも相手の方は心に他の人がいて、今も忘れられてないと」
「うん……」
相槌を打つ私に、夏美はうーんと唸りました。
「まぁ、まだ会って1、2ヶ月くらいじゃ判断できないところもあるけどさ、脈がなさそうなら諦めて次行くって選択肢もあると思うんだよねぇ」
「そうだね……」
あまり考えたくはなかったことですが、これ以上一緒に過ごしても私が寺田さんの恋人になれないのだったら……と考えたことは何度かありました。
それでも、私が寺田さんを好きだという気持ちの方が大きくて、視野に入れたくない選択肢だったのです。
でも、夏美があえてそれを言ってくれるのが、やっぱり親友だなって信頼できるところでした。
「気持ちは変えようと思って変えられるものじゃないからさ、そこは仕方ないと思うよ。でも私にとっては百合子が幸せになるのが一番だからさ~」
「うん、ありがとう」
私のことを思い遣ってくれる友人がいるというだけでも、私は幸せだと思いました。
話題はそこから別のことに流れて、私の部屋に着くまで楽しい会話が続きました。

数日後、講義の後に私の座っていた席に来るなり、夏美が突然言い出しました。
「百合子、ゴールデンウィークってまだ特に予定ないって言ってたよね?動物園のチケット取れたんだけど。4枚」
「えっ?」
「いやー、順平が頑張ってゲットしてくれたわ」
聞くところによると、今入場人数が限定されて抽選制になっている動物園のチケットに応募していて、見事引き当てたということでした。
「寺田さんと一緒に行こうよ」
「えっ」
どうやら夏美と順平さん、私と寺田さんでダブルデートしないかという誘いだったようです。
「そんなこと急に言われても……寺田さんに予定、聞いてみないと」
今の調子だとゴールデンウィーク中にも会う機会はありそうでしたが、しっかりした約束をしていた訳でもないし……予定が合わないことにはどうしようもありません。
それに、いきなり友達とダブルデートしようだなんて。

『いいよ』
LINEで聞いてみると、至極あっさりと快諾されてしまいました。
『え、大丈夫ですか?』
思わず問い返してしまいます。
『うん、構わないよ。百合子ちゃんの仲のいい友達にも会ってみたいし』
夏美については少し話していたのもあって、興味を持っているのかな?
それに、と寺田さんのメッセージは続きます。
『今のご時勢だと一緒にテーマパークみたいなところに行きたくても、なかなか難しかったからね。機会を貰えて逆に有り難いよ』
確かに、前から図書館やら本屋やらに行っていてつまらなくないかと気にしていた様子だったし、丁度良かったのかな?
私は図書館デートとかも結構好きなんだけど、寺田さんの気持ちも晴れるならそれはいいことだと思いました。
それにしても、動物園でデートか……。
思わぬゴールデンウィークのイベントに、私は期待を高まらせるのでした。

 

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