百合子の秘め事-あの人に会いたいな

全然気づかなかったのですが、私と拓也が話している間に後から入店していたようでした。
同じ席には他に、サークルの男性の先輩たちが2人います。
山田先輩を見て、拓也は顔を強張らせました。
それはそうですよね、元々は仲が良かったものの浮気騒動以降、山田先輩たちにも散々迷惑をかけてきたんですから。
「なんかさっきからずーっと同じようなこと繰り返して、百合子ちゃん困らせてるみたいだから流石にどうかと思って口出させて貰うぞ」
ボックスの背凭れに手を乗せて、山田先輩は私が座っている側に立ちます。
「お前がそんな諦め悪くてウジウジしてる奴だとは思わなかったわ。まだ百合子ちゃんが好きだってんなら、なんでその幸せを願って手放してやれない訳?結局は自分の感情ばっかりじゃん」
「なんだよ、お前に何が分かるって……あっ」
山田先輩に反論した後、しまったというような顔をする拓也。
「おいおい、俺が彼女と別れた時は『浮気するような女、許せないよな!そんな奴早く忘れて次に行こう』って言ってたじゃないか。それで自分はいいってお前、どういうご身分だよ」
そうだったんだ……山田先輩も彼女に浮気されて別れていたから、拓也と私とのことがあった時に力を入れて協力してくれていたのかもなんて思いました。
それにしても、友達がそういう経緯で彼女と別れているのに自分の方が浮気して彼女を裏切った拓也って……。

結局、山田先輩の助け舟と同じ班の先輩2人の存在感に居た堪れなくなったのか、拓也はそそくさとお金を払って帰っていきました。
なんとか退散して貰えて、私は肩の力が抜けました。
「大変だったね」
山田先輩が労いの声をかけてくれます。
「はい……ありがとうございました。私だけでは埒が明かなかったかも……」
「あいつがあんなにしつこい奴だとは思わなかったよ」
やれやれと肩を竦める山田先輩。
これは何かお礼を考えないと……と思いながらも、今何時だろうと頭に過って壁の時計を見ると、結構な時間が経っていました。
「いけない、もう帰ってバイト行く準備しないと」
「今日バイトなんだ」
「はい……先輩、今日は本当にありがとうございました。お礼はまた後日改めて」
「いいよ、こんなことくらいでさ」
ひらひらと手を振って、山田先輩は他の先輩たちと見送ってくれました。
お店を出て、軽くご飯を食べる時間くらいはあるなとスマホの時計を改めて見ながら帰路に就きます。
それにしても、山田先輩には本当にいいタイミングで助けて貰ったなぁ……と思っていたのですが、実は単なる偶然ではなかったことを、後から聡子さん経由で知ったのです。
実は並木道で私たちが揉めている姿をサークルのメンバーが見かけて、サークルの男手ですぐ連絡のついた山田先輩たちがカフェに様子を見に来てくれたんだそうで……それを聞いて、私は改めて周りの人たちに感謝したのでした。
目撃した子が誰だったのか結局分からずじまいで、お礼も直接癒えていないのが気懸かりなのですが、その分他の誰かに親切をしてお返ししようという気持ちになりました。

予定が少し狂っちゃいましたが、その後はラウンジへ。
お客様をおもてなしする時は、それに力を注いでトラブルのことは頭の隅に追いやっていました。
でも、少し間が空くとやっぱり思い出しちゃいます。
あんな拓也の姿、付き合っている間は見たことなかったな……怖かった。
男の人って女性とは比べ物にならないくらい力が強いから、何をされるか分からなかったのも怖かったです。
拓也があんな風になってしまうなんて、ユキとの付き合いはそんなにうまく行っていないのかな?
私と話している時も文句ばかりだったし。
同時に、寺田さんのことも思い浮かべていました。
すごく優しい人だけど、寺田さんだって男の人。
私が敵わないような力を持っているでしょうし、荒々しい部分もあるのかななんて考えてしまいます。
でも寺田さんがそういう乱暴なことするようなイメージ、ないなぁ。
あくまで私のイメージでしかないから、そういう面があってもおかしくはないんだろうけど……でもエッチの時、少しくらいなら荒々しくされてもいいなぁなんて、うっかり余計なことを思ってしまいました。
そっちの面では彼にだって、獲物を狙う肉食獣みたいな獰猛な部分が少し、感じられる時もあったから……。
ああ、寺田さんに会いたいな。
週末になればまた会う約束をしていたのですが、早く会いたいという気持ちが募っていきます。
早く会の優しい腕に抱き締めて貰いたい、頭を撫でて貰えたら、怖い思いをした不安もすぐに消えるだろうにと。

それからしばらくの間、キャンパスにいる時や登下校の時はなるべく友達やサークルの女の子が付き添ってくれることになりました。
仲良くなった夏美と聡子さんが連携して動いてくれたみたいで、本当に有り難かったです。
もうあんなことがなければいいなと思いながら、私は勉強にサークル活動にと充実したキャンパスライフを過ごすのでした。

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