百合子の秘め事-バイト、辞めなくちゃ

私がピルを飲み始めて間もない頃、学生生活に変化がありました。
それは、大学に入ってからずっと働いていたアルバイト先でのこと。
「先輩、どうしよう……」
ある日私がバイト先の事務所に行くと、後輩の女の子が泣きそうな顔をしていました。
「どうしたの?」
「お店を閉めるから、バイトの人数減らすって……私このバイトなくなったらどうしよう」
そう言って後輩は泣き出してしまいました。
私がバイトをしていたのは雑貨屋兼カフェのようなところで、店舗と事務所や倉庫のあるところでした。
私は事務所で働いていたのですが、時勢の波によってお店の方を閉めなければいけなくなってしまい、その分のスタッフを減らすことにしたんだそう。
店舗の方で働いていた後輩は、奨学金を貰って生活費も自分で賄わなければならない子でした。
私は両親に出して貰っていて、同じ学生でも随分立場が違い大変だなぁと思っていたものです。
その後正式に通達があって、辞める人を募ること、辞めていく人には少しだけれどお金を出すというようなことが伝えられて私は悩みました。
進学以来ずっとお世話になっていたバイト先で、評価もされていたし私自身にも親しみがある。
でも、このバイトをなくしたら自分よりも困る学生がいるんだと思うと、のうのうとしていていいんだろうかと。
世間は同じような状況で、今バイトを辞めたらすぐに次のバイトを見つけるのは難しいかも知れない。
でも、私だったら少しは貯金もあるし、いざとなったら親に助けを求められるし……
今、みんな大変な状況です。
困っている人も職を失った人も沢山いて、その中で私はまだ恵まれている方だと思いました。
だからバイト先に関しても、ここは私が辞めた方が丸く収まるのではと結論を出し、マネージャーに伝えたのです。
あなたが辞めるのは……と引き止められましたが、私以上に仕事を辞める訳にいかない事情を抱えている子たちがいることを話すと、渋々ながら了承してくれました。

「先輩!先輩が辞めることになっちゃうなんて……」
後輩は私が辞めることを聞いて、またべそをかいていました。
「いいんだよ、私なら辞めてもしばらくは大丈夫だから。それよりあなたはこの仕事がなくなっちゃうと大変でしょ。頑張ってね」
「先輩~!」
すごく泣かれて困ってしまったけれど、これが一番いいんだ。
「~さんと~さん、百合子さんは今日で最後です」
「皆さん、お世話になりました」
何人かバイトを辞めることになったうちのひとりになった私ですが、ご時勢もあって送別会などは行われず、事務所でささやかな挨拶の顔合わせみたいなものをしてバイト先から去りました。
勿論後ろ髪を引かれたし心配だったけど、残った人たちが上手くやっていってくれると信じて。

寺田さんにもLINEでバイトがなくなったことを伝えました。
この頃にはもう、出会い系のサイト経由じゃなくて直にLINEを教え合って連絡を取っていたんですよね。
しばらくは貯金を切り崩しながら次のバイトを探そうと思っていることも。
すると、寺田さんから「もしよかったら」と人を募集しているところを紹介して貰えたんです。
それはラウンジというところで、一応ナイトワーク、夜のお仕事に入る部類だけれどいやらしいことをするような場所ではなく、お客さんを複数の女性でもてなし、お酒を飲んで会話を楽しむ場所だということでした。
寺田さんの知人の方が経営しているお店は会員制で、雇っている女性もきちんとした人しか取らないという話なので、偉い人の来るちょっとおカタイ感じのところなのかもなと思いつつ。
今までバイトしていたところでは、事務系の仕事が殆どで接客はあまり経験がなかったので大丈夫かな……と思いましたが、寺田さんが紹介してくれたんだし一度面接に行ってみようと決めたのでした。

 

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