百合子の秘め事-寺田さんとの出会い、そしてデート

出会い系サイトで何人かの男性とやり取りしているうちに、少し気になる男性が現れました。
寺田さんという28歳の男性で、会社員をしているそうです。
エッチ目的の男性たちが多くて、すぐシモの話に持っていこうとする人たちばかりで嫌気が差していたところに現れた、不思議な人でした。
彼とは何度メールを交換しても、全然エッチな雰囲気の会話にならず、今日大学や会社でお互い何があったかや何気ない話で盛り上がったりしていました。
仕事やバイトが終わった時に「お疲れ様」なんて送り合ったり。
他の人には感じない、なんだかほっとする雰囲気があったんですよね。
それが彼の手練手管というものだったのかも知れませんが……。
私はいつの間にか、自分の方から色々と話をするようになっていました。
好きな食べ物のこと、生まれが海なし県だったので、上京して新鮮なお魚が食べられて嬉しいとか、市場にも行ってみたいとか。
彼氏に浮気されて別れたことや、元カレとの夜のことで悩んでいたことまでさらっとですが話してしまっていたんです。
寺田さんはそうした話にも「大変だったね」「辛かったでしょ」と気遣ってくれて、ほっとしたような申し訳ないような気持ちになりました。

そうしてやり取りを始めてから一週間くらい経った頃「もしよければ、休みの日にお昼ご飯でも食べに行かない?」と誘われたのです。
昼間に会うのなら変なこともなさそうだし、こういうところにも気を遣ってくれているのかな……という部分が見え隠れしていて、私は二つ返事でOKしていました。
私自身、彼に会ってみたいと思うようになっていたから。

休みの日に男の人と二人で会うなんて、久し振りです。
プロフィールの写真では見ていたけど、実際の寺田さんはどんな人なんだろうと思うと少し緊張しながら、私はデートの準備をしました。
寒いけど丈の短いスカートを穿いて、お気に入りの白いダウンを羽織って。
色合いが気に入っているピンクのマニキュアは、前の晩にしっかり塗っておいたりして。
出かける前、こんな格好で大丈夫かなぁ?と何回も鏡を見て確認してしまいました。

待ち合わせしていた駅に着くと、約10分前。
念のため早めに出てきたのに、待ち合わせ場所にはそれらしき男の人の姿が。
黒いダウンを着たラフな男性で、マスクをしているから顔半分は分かりませんが、優しそうな目元は写真のままです。
あの人だ!と思って、逸る気持ちを押さえて歩いていきました。
近付いていく途中で、男性の方も私に気が付きます。
「百合子ちゃん?」
「はい、寺田さん。はじめまして」
少し驚いた風な寺田さんに、ちょっと緊張しながらペコリと頭を下げました。
「びっくりしたよ、写真で見たよりずっと可愛くて」
そんなことを言われて、ちょっと照れてしまいました。
確かに気合を入れてお洒落はしてきたけど、煽てられることには慣れていなかったので……。
それに、お世辞かも知れないけど、素直に嬉しかったんです。
実際に会った寺田さんも、素敵な人だったから。
始めは年が離れているしどうかなな?と思っていた部分もあったんですが、寺田さん本人が「もうおじさんだよ」と言うほど年上には見えませんでした。
学校の先輩、というにはちょっと無理があるかも知れないけど、それでも充分若々しくて、すらっとした立ち姿がきれいだなって。
姿勢がよくて仕草が洗練されているというか……あまり私の周りでは見なかったタイプの人でした。
「寺田さんも、かっこいい人だったんですね」
「そう言われたのは初めてだよ」
寺田さんは楽しそうに笑った後、少し申し訳なさそうにしました。
「今日はごめんね、本当は一緒に豊洲や築地を見に行けたらよかったんだけど」
市場に行ってみたいと言っていた私の希望を叶えようと、寺田さんは色々調べてくれていたみたいだったのですが……。
その頃は、世間全体がそれどころではない雰囲気で、お互いよっぽど特別な時でもない限り自分の生活圏以外には自由に行けないような空気があって。
「いいんです、落ち着いてから行けたらいいなって思ってるので。それより今日は、海鮮丼楽しみにして来たんです」
私の好みを聞いて、寺田さんが知っているおすすめの美味しい海鮮丼を出してくれるというお店を予約してくれていたのです。
このご時勢に営業してくれているなんて、有り難いことでした。
想像通りの優しい雰囲気で、思ったよりも素敵な寺田さんに、まだ見ぬ海鮮丼に。
想いを馳せて頬を緩めている私を見ている寺田さんは、なんだか微笑ましげな感じでした。
私に兄がいたらこんな感じなのかなぁなんて、まだその時は思っていたのです。

 

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