百合子の秘め事-拓也との別れ・自信喪失

2023-02-11

「それってどういう意味?」
拓也が分かりきったことを聞いてきます。
終わりにしようなんて、ただ話を終わらせるだけで出てくるものでしょうか?
「別れるってこと。私たちの関係を終わらせるってことだよ」
そう説明すると、拓也は慌て出しました。
「だから、ユキとのことは血迷っただけで……俺が好きなのは百合子だけなんだ! 信じてくれ」
「それを信じたって、身体は浮気したのは事実でしょう」
なんだか頭がひんやりしてきて、冷たい言い方をしていました。
それなのに、ほっぺたや目の周りは熱くなって、涙が滲んできてしまいました。
感情が滅茶苦茶です。
でも、もうこの時にはきちんと別れるという意思だけは持っていました。
「あんなこと言って、私とやり直せると思ったの?」
ユキの方が私とのエッチよりよかったなんて、私だって初めてでどうしたらいいか分からずにいたのにあんまりだ。
私から何かしようとしてもやめさせていた癖に、積極的にした方がよかったなんて思われていても、私はエスパーじゃないんだからそんなの分からないのに。
理不尽なことを言われて、それでも許してくれと言われて、拓也から大事にされていたのは嘘だったのかも知れないと感じていました。
女としても、人間としても自信がなくなってしまったんです。
悔しくて悔しくて、ポロポロと涙が零れてしまいます。
泣きたくないのに。
ちゃんと話をして別れたいのに。
「もう無理だよ、拓也のこと好きでいられない」
「そんな……反省してるし、ずっと償っていくから別れるのだけは勘弁して欲しい」
「嫌だよそんなの……償う必要なんかなくて、楽しいお付き合いがしたかったのに……またこんなことになるんじゃって、不安になりながら過ごすなんて耐えられないよ」
ハンカチで涙を拭いていると、その時ドアベルが鳴って新しいお客さんが入ってきました。
そうしてつかつかと私たちの席にやって来たのは、夏美でした。
「そういうことだから、百合子は私が預かっていくね。最後にコーヒー代くらい払ってくれるよね?」
夏美は全ての話を聞いていた訳ではないのに、外から見えた私の様子と涙で察してくれていたようでした。
「待ってくれ、まだ話の途中……」
「拓也さん、あなたにはがっかりだわ。この子を幸せにしてくれると思ってたのに」
怒りを抑えるようなトーンの夏美の声に、何故だか安心してまた涙が出てきてしまいました。
「こんなに泣いて、もう付き合うの嫌だって言ってるのに、それでもしつこく言い寄るならそれはもうストーカーと変わんないから」
夏美の物言いに何も言い返せない様子の拓也を尻目に、私はコートを羽織って席を立ちました。
改めて拓也を見下ろすと、今まで見たことのないような情けない顔をしていました。
やっぱり、私が知っている彼とは別人みたい。
「今までありがとう、さよなら」

夏美にくっ付いてカフェを出て大学に戻る途中、彼女は堪えきれないという感じで噴き出しました。
「見た~?拓也さん、他の席にいた子たちにすごい顔で睨まれてたの。ありゃ学校中に浮気者って知れ渡っちゃうわ」
「えっ……」
周りのことなんて全然気にする余裕がなかったから、それを聞いてびっくりしました。
同じ学校の生徒に別れ話を公開していた訳ですから……。
あまり人に聞かれないようにこぢんまりしたお店を選んでいたつもりでしたが、同じ学校の学生だって来るのだしたいした意味はなかったみたいです。
それは私が彼に浮気されたということも、知らない他の生徒にも知られてしまったということで……恥ずかしいことなのに、夏美が笑っているのを見るとなんだか私までおかしくなってきてクスクスと笑ってしまいました。
「大丈夫だよ、百合子。私も、みんなもあんたの味方よ」
そういって私の手を握ってくれた夏美の手はとても温かくて。
自分は独りじゃないんだと心強い気持ちになりながら、聡子さんたちのところへ向かったのでした。

 

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