百合子の秘め事-修羅場

2023-02-11

図書館の空気がそこだけ、凍りついたようになっていました。
たまたま周りにいた人たちも固まっています。
「うわ、ユキじゃん。また人の男寝取ったの?」
その中のひとりが、嫌なモノを見るように呟きました。
そこで私は、彼女がユキと呼ばれていることを知ったのです。
「うっさいなぁ、私が誰と付き合おうとあんたには関係ないでしょ」
ふてぶてしい態度でユキはその人に返した後、私にまた顔を向けてきました。
「その感じだと、もう知ってるみたいだね。拓也は私と付き合い始めたから、あなたには別れて貰おうと思ってお話しに来たんだ」
あまりに勝手な言い分です。
でも私はそれ以前に、拓也の浮気が本当だったということのショックで何も考えられなくなってしまっていました。
「ちょっと!何勝手なこと言ってんの?」
周辺の空気がおかしいことに気付いて、席を立った夏美が割って入りました。
「あんたがユキ?名前だけは聞いてたけど、本当にこんなことしてるんだ」
「あんた何、私は百合子ちゃんと話してるんだけど」
夏美が責めるような口調で言っても、ユキはどこ吹く風。
自分のペースを崩しません。
「知ってるの?」
私は小声で夏美に聞きました。
「男遊びが酷くて、人の彼氏を奪い取るのが好きなサセコって、色んな人から聞いてたよ。まさかそんな奴に拓也さんが引っ掛かるなんて……」
サセコというのは後で知ったのですが、お股がゆるくて誰にでもエッチさせちゃう女の子、という意味でした。
私はそういう噂を全然知らなかったのですが、ユキがいる学部では有名で、その噂は生徒間の交流で夏美の耳にも入っていたようです。
苦虫を噛み潰すような顔をした夏美は、きっと私と同じような気持ちだったのでしょう。
まさか、そんな男遊びが好きな人と拓也が……。
拓也と自分との行為を思い出し、それを彼女も拓也としていたと想像して気分が悪くなってしまいました。
それまでのショックと重なって、眩暈がしてひとりで立っていられなくなった私を、夏美が支えてくれました。
私の肩をさすりながら、彼女はユキに詰問します。
「その遊び回ってるあんたが、なんでこの子と彼を別れさせようとしてんのよ?」
「んー、私もそろそろ将来のこと考えてぇ、堅実な相手を見付けておかないとと思って」
ユキの口から出てきたのは、更にとんでもない発言でした。
「カレって真面目だし成績もいいし、将来有望っしょ?だから未来の旦那としてはよさそうじゃない?」
「あんたねぇ!」
この人はきっと、拓也と結婚しても他の人と遊び回ってるんだろうな……なんて、夏美の激高する声を遠く感じながら思ってしまいました。
そんな女性に引っ掛かってしまった拓也も可哀想だな……と。
この時の私は、他人を憐れむことで自分を守ろうとしていたのかも知れません。
「拓也は……拓也はなんて言ってるの?」
彼の意思はどうなんだろう。
それを尋ねるので精一杯でした。
「あぁ、カレもあなたと別れるって言ってたよ。でもまだ迷ってるみたいだったから、長引かないように私も言ってあげようと思ってさ」
そうなんだという気持ちと、まだ本人の口からそれを聞くまではという気持ちが、私の中でぐるぐると巡っていました。

ユキが言いたいことだけ言って去って言った後もしばらく、図書館には気まずい空気が流れていました。
「ごめん、そろそろ進めなきゃね」
「まだ無理しない方がいいって」
レポートの資料集めに戻ろうとした私を、夏美が引き止めます。
「でも、何かやってる方が考えずに済むから」
「そう……。でも、辛かったり何かあったらすぐ言ってよね」
そう言われることも、なんだか重い……。
夏美の心配は有り難いけれど、その時は感謝の気持ちを持つ余裕もなくなっていました。

「確かめなくちゃ、拓也に……」

 

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